くりぬき法
粉瘤のくりぬき法
適応
- 化膿した粉瘤の膿を出すとき
- 皮膚とくっついていない膨らんだ粉瘤を摘出するとき
適応ではない場合
- 粉瘤の袋と皮膚が非常に強くくっついている場合 (過去に化膿したことがある場合)
- 粉瘤の上の皮膚が非常に薄い場合(粉瘤が真皮の表層にできてしまった場合)
手順
- しこりのまわりに局所麻酔の注射を行います。化膿しているときは中央だけ麻酔します。
- 盛り上がったしこりの中央を、先端が鋭くとがったメス(11番と呼びます)で丸くくり抜きます。
- 中身をできるだけ絞り出し、可能であれば、袋も一緒に除去します。
- 化膿している場合は、注射器シリンジに生理食塩水を入れて、ポンピングしながら、きれいに洗います。 この方法は2014年4月に臨床皮膚科医会で発表し、YouTube動画をご用意しましたので、自由にご覧ください。
- 化膿していない粉瘤では、傷口は縫合閉鎖します。
- 化膿している場合は、縫合しないで、抗生剤軟膏を塗布して、自然治癒を図ります。
- 術後経過は、はじめは血と汁(滲出液)が出ますが、意外にきれいに治ります。
注意点
- 粉瘤の場合は、袋も一緒に取り除くことができれば、再発はなくなります。
- 化膿している場合は、袋が溶けてしまってなくなっていますので、あとで再発する可能性があります。再発したときには、化膿する前に摘出します。
(コスト面から現在は生検用パンチを使わなくなりました。)
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左から
1.頬部粉瘤 入口の毛穴が閉鎖している。直径1.5cm大
2.直径3ミリの孔を開けて、粉瘤の袋に貯まった皮脂などを絞り出す
3.中身がなくなった状態で、袋を周りからはがしながら、引っ張り出す。
4.取り出した袋の一部と中身
5.治った傷跡。 にきび痕のようになりました。時間が経つと、もっときれいになります。
こちらもご覧ください
ほくろのくりぬき法
適応
- 特にくちびる(線状瘢痕を残したくない場合や鼻孔に接している時など)
- 頬部など皮膚が伸びやすい部位
適応ではない場合
- 皮膚が硬くて、ぶ厚い部位(背部など)
- 早くきれいに治したい場合(通常、紡錘切除し、真皮縫合を行った方が早く治ります)
手順
- ほくろ周囲に局所麻酔を行います。
- ほくろに沿ってメスで丸く切り抜きます。この際、皮下脂肪内の毛根も除去します。
- くり抜いた縁に沿って、真皮に1,2㎜間隔で糸を水平方向に浅くかけていきます。
- 縫合糸は、あとで抜糸しますので、ナイロン糸でも構いません。
- 全周に糸をかけ終わったら、糸の端と端をゆっくり引っ張り、皮膚を巾着のように閉じていきます。急に強く引っ張ると、糸が切れてしまうことがありますので、ゆっくり寄せることが大事です。
- 巾着ですので、創縁はしわしわででこぼこになり、ぴったり合いませんので、皮膚を2針ほど縫合しておきます。
術後経過
- 粉瘤のくり抜き摘出より、出血や汁(滲出液)が多く出やすいので、3,4日はガーゼでカバーした方がよいです。
- 術後1週間で抜糸します。
- 体質にもよりますが、くちびるの傷跡は赤く硬くなることが多いです。肥厚性瘢痕と呼びます。
- 1か月に一度通院して、ステロイド徐放テープ(ドレニゾンテープ)やケナコルト(ステロイド)局所注射で治療しながら、徐々に落ち着いた状態にしていく必要があります。2,3ヶ月経つと、平らになり、色が薄くなります。(個人差があります。)
紡錘切除法
紡錘切除法
おおむね5mm以上のほくろや、皮膚に癒着しているしこり(粉瘤など)を除去するときは、皮膚を紡錘形に切り取ります。
紡錘形の長径ですが、通常は腫瘤径の3倍の長さを切る必要があります。切開する長さを短くしすぎると、両端にドッグイヤーという変形を生じるからです。
直線切開法
ゆるやかなS状切開法
ゆるやかなS状切開法
皮膚に付着していない比較的大きな腫瘍を摘出する場合、S状のゆるいカーブを描きながら、切開を入れることで、直線の傷あとより目立ちにくくすることができます。
左から大腿部粘液嚢腫摘出時S状切開、術後半年後、術後1年半後線状瘢痕はほとんど目立ちません。
ジグザグ切開法
ジグザグ切開法
しこりを除去する手術ではほとんど行いません。何かの原因で残ってしまったシワを横切る傷あとを目立ちにくくするためのテクニックです。一方が凸だったら、対側を凹にして、一対になるように切開して、きちんと真皮縫合を行うことは、かなり熟達した技術が必要になります。
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左から
1.おでこの怪我の跡。おでこを縦に横切る弧状瘢痕
2.額のしわを横切る線を少なくするためにジグザグに切開します。
3.ジグザグにデザインし、正確に切開することはかなり難しいです
4.真皮縫合しているので、皮膚表面に糸は見えません。
5.おでこのシワを横切る線が少なくなるので、目立たなくなります。
縫合糸や真皮縫合
縫合糸や真皮縫合
形成外科では顔や背中など一般的な体表面では真皮縫合を必ず行います。
真皮縫合の糸は、生分解(吸収)されないナイロンやポリプロピレン糸、生分解(吸収)されるポリ乳酸-グリコール酸やポリディオキサノン糸などを使います。
船橋ゆーかりクリニックでは、生分解性ポリマーでできているポリディオキサノンでできた国産のモノスティンガー(ベアメディック社)という吸収糸で真皮縫合を行い、創閉鎖していますので、抜糸は不要です。糸は徐々に(半年前後)吸収されてきます。
皮膚の表面は、創傷被覆材デュオアクティブでカバーしています。防水になるため、お風呂にも入ることができて、日常生活の妨げになりません。
なお、ナイロンなど吸収されない糸で真皮縫合を行っても、ほとんど問題は起こりません。時に露出してくることがありますが、吸収糸でも対外に排出されることがありますので、頻度としては同じくらいでしょう。皮膚表層にかなり近く真皮縫合すると、のちに体外に排出されやすくなるという印象があります。
皮膚に緊張がある部位に行う強化縫合としての皮下縫合
切除した皮膚の幅が広い場合や背中や腰など皮膚が分厚い部位は、傷が治るまでに時間がかかり、傷が開きやすい部位なので、安全面を重視し、脂肪層や筋膜層を丈夫な絹糸やナイロン糸で補強縫合を行う場合があります。吸収されないので、縫合力が保持され、傷が開くことを防ぎます。
真皮縫合を行わない部位
1.手足のような表皮の角質層が厚い部位
2.眼瞼のような皮膚が非常に薄い部位
3.お尻のような座ると圧力がかかる部位
以上の部位では皮膚縫合を行い、1~2週間前後で抜糸を行います。
真皮縫合糸について
以前は 同じポリディオキサノンでできたアメリカ製のPDSII(エチコン、ジョンソンアンドジョンソン社)という吸収糸を使っていましたが、一般的なナイロン糸の6倍以上の価格のため、モノスティンガーに変更しました。材質はほぼ同等です。針の切れが違いますが、術後経過に有意な差は生じていません。
保険の料金設定の矛盾について
現在の保険は一律に手術料が決められています。その手術料金の中に、糸など手術材料のコストも含まれるとされています。 また、初心者が縫合しても、ベテランが縫合しても、同じ料金ですし、安いナイロン糸を使っても、高価な吸収糸を使っても、コストが同じなのは納得がいかない気持ちです。診療報酬システムの矛盾を感じながら、効率のよい運用を心がけています。